「セルフレジと不正」 第2回 セルフレジ不正の経営への影響

セルフレジと不正①

コラム「セルフレジと不正」シリーズでは全5回にわたり、セルフレジを使用した不正の現状や対策について解説していきます。

第2回では、セルフレジ不正が経営へ与える影響について紹介していきます。

セルフレジ不正の経営への影響

セルフレジでのお客自身でのスキャン作業と支払い手続きは、とりもなおさず新たな犯罪の機会を与えることになります。したがって不明ロスの増加のリスクは間違いなく高まります。

2018年のECR ヨーロッパのレポートによれば、セルフレジの売上が1パーセント増えるごとにロスは1ベーシスポイント(1万分の1)増えるといいます。
この数値をもとに計算すると、全体の売上に占めるセルフレジの売上が50%になったときにロス率は0.5%増える計算になります。

さらに売場を移動しながら商品をスキャンするセルフレジ(トライアルカンパニーのレジカート、USMHが採用しているスキャンアンドゴー、イオンリテールのレジゴー、イトーヨーカドーのピピットスマホなど)ではさらにその5~8倍になるとしています。

もちろんこの数値が必ずしも正しいと断定はできず、個々の対策によってこれ以下にロスを減らすことは不可能ではありません。

2022年にアメリカでもっとも評価の高いスーパーマーケット・チェーンのひとつのウェグマンズが導入していたスキャン&ゴータイプのセルフレジの中止を決めたというニュースがありました。セルフレジ導入によりロスが無視できないほど増えて、これ以上続けられないという判断になったそうです。

つまりセルフレジ不正によって経営(利益)に多大な影響があったということでしょう。
セルフレジ不正によるロス額のみを特定することは大変難しく、正直なところ完全に把握することは不可能です。

ロスの原因とセルフレジ不正の部類

ロスの原因には大きくわけて二つあります。悪意のある不正行為人的な管理ミスです。

不正にも内部従業員や取引先業者の不正によるもの、そして客として来店する者による不正です。

後者を「万引」と呼ぶことが多いのですが、立派な窃盗罪であり、「たかが万引」という表現は正しくありませんし、使ってはなりません。残念ながら一部の弁護士は裁判でそのような発言があるのも事実です。年間数千億円から1兆円近い日本の小売業のロス額のうち大きな部分を占めるのが外部の人間による不正と思われます。これを「たかが万引」などと片付けることは決してできるものではありません。

外部の人間による不正の一部がセルフレジでの不正です。

ちなみに、、、
(マスコミなどで「セルフレジ万引」という表現が使われますが、万引の語源は一説には「間引く」と言われます。棚に並んだ商品を間引く、つまり抜き取るということです。また英語では「shoplifting」と呼ばれて、売場で商品を窃取することを指します。一方セルフレジでの不正行為には窃盗と詐欺、もしくは器物損壊罪が摘用されます。したがってここでは「セルフレジ万引」という表現はせずに「セルフレジ不正」と呼ぶことにします。また、一般社会でもこのような表現にすることが望ましいと考えます。)

被害額や不正発生件数の定量化

不明ロスは、実地棚卸を行い、実在庫確定をして初めて判明します。つまり在庫を調べてみないとわかりません。
判明したロス額の売上に対する比率を「ロス率」と呼びますが、その中で原因が内部不正なのか外部不正なのか、外部不正でもいわゆる「万引」なのか「セルフレジ不正」なのか、どれに当てはまるかはわかりません。棚卸後の調査である程度推測はできるものの、完全に把握することは困難です。つまりセルフレジ不正によるロス額ロス率は明確にはわからず、調査の結果からの推測でしか求められないということです。

さて、下の表のように日本リテイリングセンターの調べによればチェーンストア小売業の7割以上が実地棚卸後のロスの原因の調査をしていないという事実から考えても、セルフレジ不正の実態を把握できているはずはありません。

<日本リテイリングセンター調べ>
セルフレジ不正2 ロス原因調査表.png

ただし、ロス率やロス額の経時変化による推測は可能です。つまり、過去、セルフレジ導入前のロス率との比較です。もしそれが増えていれば、セルフレジ不正によるものかもしれません。ただし、過去のデータに十分な信頼性があり、過去のロス率が安定している場合のみです。あまりにもボラティリティが大きいとセルフレジ不正によるロスは見えなくなってしまいます。 

もうひとつの方法は同時期のセルフレジ導入店舗と未導入店舗との比較です。同規模で過去のロス率、品ぞろえ、店舗オペレーション、レイアウト、立地なども類似した店舗との比較です。

この二つの比較によりセルフレジ不正についてある程度の推測ができると思われます。

実際トライアルカンパニーでは、店舗の経時変化を指標として、セルフレジ導入前と導入後のロス率を比較して悪化したことが判明したため、セルフレジ不正対策をすることでセルフレジ導入前の水準までにロス率を低下させることに成功しています。(後述)

不明ロスの経営へのインパクト

日本の小売業の平均的な利益率は2%程度と言われます。(製造業の平均が4%であるのに対してその半分程度)
ここでは不明ロスがどの程度利益率に影響を与えるのか例を挙げてみます。

営業利益率2.0%の企業がロス率を0.1パーセント削減できたとします。他の販管費などの数値が変わらないとして、営業利益率は2.1%となります。
それでは営業利益率2%の企業がロス率の改善なしに同じだけの営業利益高を上げるにはどのくらいの売上が必要なのだろうかを計算してみましょう。 

売上高15億円、営業利益率2%、営業利益高3千万円の店舗が0.1%のロス削減によって営業利益率が2.1%になった場合の営業利益高を求めてみましょう。

¥1,500,000,000 × 2.1% = ¥31,500,000

 次に、販売管理費率も粗利益率も変わらず、営業利益率が2%のままだったときに、0.1%ロス率を改善して得られた営業利益高を得るためにはどのくらいの売上増が必要かを計算してみます。

¥31,500,000 ÷ 2% -¥1,500,000,000 = ¥75,000,000

 この数値は同じ営業利益高を得るためには売上高を7千5百万円増やすことを意味し、売上高を5%増やさなくてはならないことを示しています。
言い換えれば、ロス率をわずか0.1%改善することと売上高を5%増やすこととは同じ価値があるともいえます。
もちろんロス削減にかかわる経費や販売管理費の変化などを考慮する必要はありますが、ロス率の改善はこれほど経営に大きなインパクトを与えることがわかります。

下の表はロスの改善率とそれと同じだけの営業利益高を得るために必要な売上増加率を示しています。ぜひとも貴社の数値を当てはめてみてください。


セルフレジ不正2 改善ロス率と営業利益率.png
厳密に計算するとロス率は売価換算であり、粗利益率の変化は、ロス率(ロス高)に原価率を乗じた値に近くなる(粗利益率、商品回転率、ロス率の値によって数値変化する)ので実際には営業利益率の改善幅は、ロス率の改善分の3~8割程度になるが、粗利益率とロス率との関係(負の相関関係)の理解を図るために試算モデルおよび表では単純化してロス率と粗利益率の変化を同じとしている。

 

セルフレジ導入のメリット・デメリット

セルフレジを導入するにあたっての費用対効果、あわせて不正防止への投資や費用について効果を推測し、その結果を検証する必要があるのはもちろんです。
セルフレジ導入によって利益が低下してしまったのでは意味がありません。

セルフレジ導入によるメリットは顧客体験の改善向上、すなわちお客はレジの行列に並ぶ待ち時間が短くなることと、レジ業務における生産性の向上、すなわち少ない人時で同じレジ業務を行えることです。
一方でデメリットは、セルフレジ不正の機会を与えることです。何もしなければ、従来の万引窃盗が原因のロスに加えてセルフレジ不正があるために、ロスは増えるはずです。
そうならないために投入するセルフレジや防犯のためのカメラ設備などの設備投資の評価もすべきです。

セルフレジ導入を評価する3つの指標

それではセルフレジ導入を評価する指標を挙げてみましょう。
最終的なゴールは営業利益高(率)です。そして営業利益を左右するのは、売上高販売管理費売買差益(粗利益)です。
セルフレジや防犯カメラシステムなどは初期投資として考えられますが、減価償却もしくはリース契約により経費として計上することが必要でしょう。

さて、その三つの指標についてさらに詳細に検討してみましょう。

売買差益(粗利益)

ロス率の悪化は、粗利益率の悪化につながります。もちろん値入率を向上させることでカバーすることは可能ですが、仕入れ原価や売価設定について、ここでは議論はしません。
今回のテーマはセルフレジ不正によるロス率の悪化をどう防ぐかですから、最終的な収益を考えれば粗利益以外の他の部分についても検討が必要です。

販売管理費

経営の視点ではセルフレジ導入で最も期待するのは労働生産性であり、人件費の軽減です。
したがってセルフレジの使用率を上げる施策が不可欠です。使ってもらわなければ意味がないのは当然です。
一方でその結果、売場での万引行為に加えてセルフレジでの不正行為の機会を増やすことになるわけです。
まずはセルフレジ導入によって販売管理費の大きな部分を占める人件費の削減がどの程度実現しているのかを測定する必要があります。簡単に言えばロスは増えたがそれ以上に人件費が軽減できたのであれば、効果があるといえるかもしれませんし、その逆であればセルフレジを導入すること自体が間違った判断だったということになります。

売上高

次に考えるべきは売上です。前述したようにお客の買物体験の質の向上の一つはレジで待たされることの解消です。
誰もが急いでいるときにレジに並ばされてイライラしたことはあるのではないでしょうか。
もしレジに並ばなくてもよくなれば、間違いなくお客にとっては喜ばしいことですし、その店に対しての印象はよくなるに違いありません。客はこれにより店内滞留時間を短くでき、また同じ買物時間に占めるレジ精算時間が減少することで、買い上げ点数が増えることも期待できます。
また快適な買物体験は来店頻度の向上につながることも見落とせません。繰り返し来店していただけるお客を増やすことこそがチェーンストアの狙いの一つです。お客にとってわが店はなくてはならない存在になることです。
もちろんIDPOSでの来店頻度の分析をすることもできますが、売上高と来店客数が重要な指標になることは間違いありません。

 
次回はセルフレジ不正がどうして起きるのか、その発生要因について解説していきます。



作成:全国万引犯罪防止機構理事
工業会日本万引防止システム協会副会長
エイジスリテイルサポート研究所
近江元



〈〈コラム「セルフレジと不正」シリーズをチェック!〉〉
第1回「セルフレジとは」
第3回 「セルフレジ不正の発生要因」
第4回「セルフレジ不正の手口」
第5回「セルフレジ不正の防止策」


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