「セルフレジと不正」 第3回 セルフレジ不正の発生要因

セルフレジと不正①

コラム「セルフレジと不正」シリーズでは全5回にわたり、セルフレジを使用した不正の現状や対策について解説していきます。

第3回では、セルフレジ不正の発生要因について紹介していきます。

セルフレジ不正の発生要因

セルフレジ不正はなぜおきるのでしょうか。
万引といわれる売場で商品を隠匿し未精算で店外に持ち出す行為と比較してその原因、不正の動機はどう違うのでしょうか。

図)ドナルド・R・クラッシーの不正要因のトライアングルセルフレジと不正3 不正要因のトライアングル.png


上図は不正要因のトライアングルと呼ばれます。犯罪に対する動機があり、自らの犯罪を正当化し、かつ犯罪の機会の三つが揃わないと犯罪は起きないとするものです。
つまり、どれかひとつでも欠けると犯罪は起きないということです。

セルフレジの存在は、この三つの中のうちの〈機会〉を今まで以上に商品の窃取を試みようとするものに与えてしまうことになります。それは当然、セルフレジを導入する前と比較して新たな機会となります。

これは何を意味するのでしょうか。
セルフレジという新たな不正の機会を与えてしまったので、何もしなければ、ロスは増えることになるのは自明の理であり、また完全に防ぐことはできません。
つまり多いか少ないかは別としてロスが増えるのは間違いありません。

ではどうすれば少なくともセルフレジ導入前のロス率のレベル維持できるのでしょうか。

考えてみればわかることですが、セルフレジ不正に起因しない、その他のロスを削減しなくては、セルフレジ導入前のロス率のレベルにならないのです。

セルフレジの導入によりセルフレジでの不正問題がマスコミなどで多く取り上げられクローズアップされる中、今一度自社の状況を振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。
不明ロスの原因がセルフレジ不正であろうとなかろうとロスには変わりがありません。ならばセルフレジ不正対策だけに血道をあげるのは、正しい選択ではないことがわかります。

セルフレジ導入前後比較

セルフレジ不正の予防策の立案実行と並行して、それ以外のロスを削減する方策が必要です。

次の図をご覧下さい。無策では「セルフレジ導入後①」となり、セルフレジ不正の削減とセルフレジ不正のロスをカバーするために、今までのロスの削減とを取り組み、セルフレジ導入前と同じレベルのロス率にする「セルフレジ導入後②」。
さらに、ロスのすべての要因を削減して、全体のロス率をセルフレジ導入以前のレベルをしたまわるようにする「セルフレジ導入後③」を実現しなくてはなりません。

セルフレジと不正3 セルフレジ導入前後比較.png

犯行時の心理的状況

さて、セルフレジ不正は、万引窃盗での犯行の心理的状況はやや異なります。
もちろん不当に商品を持ち出して、自分のものにしようという点では共通していますが、多くの場合、セルフレジ不正では、かごもしくはカートに入れた商品の中からごく一部の商品を何らかの方法で商品スキャン(未精算のまま)をせずに持ち出そうとし、他の商品はスキャン登録をしたうえで代金を支払います。
(後述する手口の中には、一部の商品だけではなく、全部を不当に持ち去るといったものもあります)

万引と呼ばれる不正行為には、計画的に万引を目的に店舗に入る者がいる一方で、最初はその意図はなかったが、売場で衝動的に無計画に万引行為をするものも数多く存在します。

セルフレジでもその両方が存在するはずです。
セルフレジの特徴としては、多くの場合、精算し購入する商品の中の一部を窃取する例が多いことは既に述べました。
これから類推すると、商品をスキャンしているうちに「ひとつくらいスキャンしなくてもばれないだろう」「もし、それを指摘されれば、スキャンしたはずだと思ったと言い訳ができる」と考える者がいても不思議ではありません。

セルフレジ不正に関する消費者の意識調査

ここでアメリカでのセルフレジ不正に関する消費者の意識調査の結果を紹介しましょう。



買物客はセルフレジでの不正行為について率直に語る LendingTree の最新の調査により、不明ロスとセルフレジにおける不正との直接的な関係が明らかになった。

ほとんどの買物客はセルフレジを利用したことがあり、それを好ましく思っている。一方で、多くの人は依然として、代金を支払わずに商品を得たいという誘惑に駆られている。

多くの小売企業がすでに知っているか、疑いを持っていることを裏付けるように、最近の調査では、回答者の 15% が、スキャン中に意図的に商品を持ち出したとしている。
セルフレジを導入したスーパーマーケットなどの食品小売業にとってさらに悪い兆候として、そのうちの60%がその後、後悔したものの、44%が成功したために再び商品を盗もうと考えているという。

この種の不正行為の問題として広く認識されており、消費者の 69% はセルフレジが不正の一因となっていることを理解している。
セルフレジと不正3 セルフレジ不正に関する消費者意識調査.jpg
〈グラフの説明〉
精算のスピート、効率の良さ    62%                  社会的不安                                 19%
レジの列が短くなる                  44%                    プライバシー                             19%
自分で袋詰めできること           25%                   単純に好ましいと考える                 11%
不正を行わない人間でも、不正を目撃した場合、それを咎めたり、店舗側に知らせることはやりたがらない。調査によると、誰かがセルフレジでの不正行為を目撃したことのあるセルフレジ利用者は23%おり、そのうち45%はそれに対して何もしなかったと回答している。

セルフレジでの不正行為について人口統計上の顕著な違いがあることがわかった。 Z世代の買物客のほぼ3分の1(31%)とミレニアル世代の21%が、意図的に商品をスキャンせずに入手したことがある。性別ベースでは、男性の52%が再度セルフレジでの不正行為を繰り返すると回答しているのに対し、女性は33%となっている。18歳未満の子供を持つ人の半数は、セルフレジでの不正行為をこれからするだろうと答えたのに対し、子供のいない者39%が同様の回答をした。

確かに、深刻なインフレ傾向の中で食料品の値上げや供給不足がセルフレジでの不正の一因となっているが、調査では、購買層の一部はそれとは無関係に窃盗行為を行っていることが示されている。調査会社のLendingTreeのチーフクレジットアナリストであるマット・シュルツは「経済的に苦しい人々の中には、お金を払わずに商品を手に入れたいという誘惑に駆られる人がいるのは間違いない」と述べた。「しかし、セルフレジではそれが可能であるから、もしくはスリルがあるから、セルフレジで不正をやっているという者のほうが多いのではないかと思う。また、うまくいけば、もう一度やりたくなることは十分に考えられる。初めに成功すると、さらに何度も同じことを繰り返すだろう。」

この調査は多くの消費者の倫理的問題を浮き彫りにしているが、いくつかの前向きな調査結果もあった。回答者の約3分の2(62%)がセルフレジの効率性を気に入っており44%がレジの列で待つ時間が短縮していることを評価していると回答した。アメリカ人のほぼ全員(96%)が少なくとも一度はセルフレジを利用したことがあると回答している。

シュルツは、小売企業は競争力と収益性を維持するために不明ロスと戦う中で、セルフレジのリスクとセルフレジの導入によって得られるメリットのバランスをとる必要があると述べた。 「セルフレジは便利だが、不正行為のリスクがあるのは間違いない」と彼は言う。 「最終的に小売企業は、セルフチェックアウト端末がリスク(不正行為によるロス)を負うだけの価値があるかどうかを判断する必要がある。確かに、レジに必要な人数が減るため、人件費を削減できるとしても、それ以上に盗難の増加を上回るかどうかである。おそらく多くの小売企業がこの問題に取り組んでいるだろう。」

この問題は勿論、業界では大きな話題になっている。英国では最近、ブースというスーパーマーケットチェーンが、消費者からの不評やその他の問題のために、ほぼすべてのセルフレジエリアを撤去すると発表した。米国では、ウォルマートがニューメキシコ州の一部店舗からセルフレジを撤去する計画を共有する一方、ターゲットの一部店舗ではセルフレジを10品目以下に制限し始めた。この秋初め、ショップライトはデラウェア州の店舗に有人レジに戻した。非会員の購入に対抗するため、コストコは現在、セルフレジで会員認証と写真付き身分証明書を要求している。(訳注:日本でも入店時に顔写真のついた会員カードを提示する必要がある。)



(プログレッシブグローサーの記事より:抄訳筆者)

 

調査結果から分かった発生要因

また、グラバンゴ社(無人店舗システムを開発したイスラエルのIT企業)は、コンピューター・ビジョンを使用して5,000件近くのレジでのトランザクションを分析し、手に取った商品と支払い精算データを比較して、実際に何が購入されたかを確認しました。
その分析によると、セルフレジでは従来のレジに比べて16倍以上の主に不正と思われるスキャンデータと画像データの不一致が発生し、セルフレジを利用者の7%近くで手に取った商品とそのスキャンデータの不一致が見つかりました。一方、有人レジでは0.32%でした(不正手口としてのスウィートハーティング:客とレジ担当の共犯があるが、主にレジ担当者のミスによるものと思われます。)

 また詳細は書きませんが、国内では、わずか数百円の商品をスキャンせずに持ち出したことにで、事件が発覚、逮捕されて失職した警察官や教師の例が報道されています(一般人の同様の行為はあまりニュースにはなりません)。もともと万引などの犯罪そのものは経済合理性を考慮して行われてはいません。
それにしてもセルフレジ不正行為は誰が考えても、あまりにも稚拙な行為です。

ではなぜこのようなことが起きるのでしょうか。それは前述のレポートにあるように「誘惑」です。これは万引窃盗以上に強いものであります。

さて、人間は最大1日に3.5万回の意思決定を行っているという研究結果あります。当然、ひとつひとつの事象に対して合理的に決めようとすると膨大な負荷がかかります。そこで人間は、重要度に応じてその処理の仕方を変えているわけです。これを選択の二重過程理論といいます。重要度が低い(システムⅠ)ものは、経験則や直感的に素早く選択判断することになります。従って人の心理的な習性が作用しやすいのです。

重要度が高い(システムⅡ)もの、例えば将来を左右する、高価な買い物の選択、自身が価値を置く事象などは、意識的で時間がかかるものです。

セルフレジでの不正行為は、システムⅠであることがほとんどであり、セルフレジでのスキャン操作を行う中で唐突に不正の誘惑に駆られてしまうことは想像に難くありません。

ここにセルフレジ不正についての保安警備員のコメントをいくつか紹介します。

・複数の店でセルフレジ不正を行い、捕捉されることがある。犯人は、セルフレジでは不正をできそうな雰囲気を感じる。つまり人目がないからやれるという心理、また自分はお客だからいいんじゃないと都合のよういように考えがちだ。

・繰り返しセルフレジでの不正を行う場合、最初の動機を忘れてしまい、日常化してしまう。犯人は、最初の動機を振り返る必要があるが、それに対して保安員からは働きかけはできない。ある説ではセルフレジ不正に限らず万引の動機のひとつは「失われたものを取り戻す」行為であるという。その原因について本人がそれを向き合わないと不正行為がやめられなくなり、繰り返し犯行を重ねることになる。

・モバイル型でレシートがでないものは警備員にしても確認ができない。さすがにスマートフォンを見せてくれとはいえない。したがってモバイル型は、不正を助長してしまう可能性がある。

・モバイル型には注意事項として、「確実に商品登録されていることを確認してください。」もしくは「恣意的な不正が発見された場合は、詐欺罪として告訴されるリスクがあります。」のようなものを画面に表示したらどうだろうか。(実際にこのような警告を表示している者も多い)



セルフレジ導入の目的は、顧客の利便性とレジの人時の削減ですが、一方ではロスの要因にもなるため、利便性とロス対策をどう両立させるか非常に難しい問題です。
次回はセルフレジ不正の手口、その対策について説明していきます。


作成:全国万引犯罪防止機構理事
工業会日本万引防止システム協会副会長
エイジスリテイルサポート研究所
近江元


〈〈コラム「セルフレジと不正」シリーズをチェック!〉〉
第1回「セルフレジとは」
第2回 「セルフレジ不正の経営への影響」
第4回「セルフレジ不正の手口」
第5回「セルフレジ不正の防止策」


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