スマート無人営業店舗の全貌に迫るー三洋堂ホールディングスの戦略

これまで5回にわたり「セルフレジ不正」による経営への影響や不正発生要因、手口・防止策について解説してきました。
今回は実際にセルフレジを導入している店舗の実例紹介として、中部エリアを中心に書店を展開する三洋堂ホールディングスの代表取締役社長 加藤和裕様、業態開発室長 加藤正康様 にインタビューへご協力いただきました。
同社は、書店として日本初の 顔認証による入店管理で有人と無人のハイブリッド型24時間営業店舗を運営されています。今回のインタビューでは、無人営業店舗の取り組み内容や導入成果について詳しくお話をお伺いしました。
セルフレジに関する過去コラムはこちら
企業概要
<社名> 株式会社三洋堂ホールディングス 様
<会社HP> https://ir.sanyodo.co.jp/
<事業内容>
持株会社としてのグループ経営戦略の策定・推進と経営監督
書籍・雑誌、文具・雑貨、映像ソフト、音楽ソフト、ゲームソフトの販売、レンタル、古本・中古ゲームソフトの買取り販売、トレーディングカードの買取り販売
中古ホビー事業、フィットネス事業、教育事業、ビュッフェ事業、不動産賃貸業
今回のインタビュー対応者⇩
1.事業内容について教えてください。
新刊書籍を中心として文具・雑貨、プラモデル、販売用のCD・DVD、新品・中古のトレカやゲーム、ふるほん、レンタルCD/DVD/コミックを実店舗で販売しています。また、教室、フィットネス、ビュッフェ、駿河屋など他のサービス・小売事業も展開しています。
三洋堂書店では2018年からセルフレジを導入し、さらに2024年2月19日から「スマート無人営業」の導入を開始しました。
・スマート無人営業とは?
顔認証とセルフレジにより、無人営業を可能にした仕組みです。
例として、三洋堂書店よもぎ店では、9:00~23:00までは有人営業を行い、23:00以降はスマート無人営業を実施しています。
現在、多くの無人店舗で採用されているLINE認証はスマホの操作・事前登録などが必要で、お客様に入店の際にストレスを与える手法です。弊社は事前登録不要の顔認証を採用することで、お客様にストレスなくご利用いただける店舗を実現しました。
|三洋堂書店よもぎ店のスマート無人営業の様子
①スマート無人営業中に入店を管理する事前登録不要の顔認証端末と利用方法の告知
②「24時間顔認証カメラ作動中」のステッカーが不正に対する抑止力になっている。
③セルフレジの様子。
2.スマート無人営業のコンセプトと導入背景について教えてください。
・導入背景弊社がスマート無人営業を始めようとしたきっかけは、2023年3月20日に山下書店世田谷店が日本初のLINE認証での入店管理を用いた有人と無人のハイブリッドによる24時間営業を始めたことでした。
これまでは出版市場が右肩下がりの中で、弊社でも閉店や営業時間短縮をせざるを得ない状況が続いており、お客様にご不便をおかけする歯がゆい状況が続いていました。
しかし、山下書店の取組を見て、無人営業であれば営業時間を延ばしても人件費はかからないため、この状況を変えられるのでは思い、弊社でも同様の仕組みで24時間営業ができないかを検討し、入店管理システムをLINEから顔認証に変更するなど色々と改善しつつ実現にこぎつけました。
・スマート無人営業の導入店舗数
2024年2/19(月)に豊田市本新店で導入してから、4/15(月)名古屋市名東区よもぎ店、6/14(金)岐阜県可児市下恵土店、7/8(月)豊川市豊川店、9/9(月)碧南市碧南店、10/7(月)岐阜県郡上市大和店、11/11(月)茨城県石岡市石岡店、11/25(月)瀬戸市ひしの店、2025年1/20(月)岐阜県養老郡養老店と順次導入し、現在は9店舗にスマート無人営業を導入しています。
・スマート無人営業中に取り扱っている商品
新刊書籍、ふるほん、文具・雑貨・プラモデル、レンタルCD/DVD/コミックをご利用いただけます。(有人対応が必要な一番くじ、ゲーム、販売用CD/DVD、トレカ、図書カードなどは販売しておりません)
・ターゲット顧客層
交代制の工場勤務の方など夜遅い時間帯でなければ買物が難しい 30~50代の男性がメインターゲットです。
・スマート無人営業の導入地域の特徴
特にありません 。立地法申請をしていない物販面積が狭い店は24時間営業できるので優先的に導入しています。繁盛するのは店前道路の交通量が多く、近くに工場が多いなどターゲット層の顧客が多い地域のお店です。
・通常の店舗と比較してのメリット・デメリット
メリットは営業時間が長いこと、デメリットはスマート無人営業中に一部サービスが制限される、電気代や不明ロス(窃盗被害)が増えることです。
・スマート無人営業の導入にかかったコスト
店によってまちまちですが、150~300万円程です。
・導入によって期待していた効果の達成度合い
店によって差はありますが、おおむね目標売上を達成しています。
3.運営方法や技術面での工夫について教えてください
・店舗の設計において、三洋堂書店様ならではのこだわりや工夫
他社の無人店舗と比較してという話だと、カウンターをしっかりカーテンで区切っている点です。
・通常の無人店舗やセルフレジ店舗と比較し、特別に行っている窃盗防止の対策
他社の無人店舗はそもそも入店に制限がないノーガードの店が多いので、顔認証が一番の窃盗防止対策となっています。
・不正の発生率
スマート無人営業中に起きている不正の件数は把握できていません。が、導入店の不明ロス(窃盗被害)が他店と比べて特別多いわけではありませんので低いと思われます。
・無人営業時間帯は完全に無人なのか
完全に無人です。お客様からの問い合わせはIVRyという自動電話応答サービスでご用件を録音し後日お客様相談室が対応します。
・スタッフが介入する必要がある場面の発生頻度
人が対応するのはSECOMが発報した場合だけですが、今のところ一度もありません。
4.利用者の反応を教えてください。
・ターゲット客層と実際の客層の違い
おおむね想定通りで違いはありません。が、本を買いに来る理由は結構人それぞれです。
・昼間と夜間で売れる商品の違い
夜間は特に古本やコミックが売れている傾向です。
・顧客からの肯定的、否定的な意見
基本的には遅くまでやってくれていてありがたいという肯定的な意見が多いです。
否定的な意見をあえて挙げるとすると、窃盗などの犯罪行為に対する懸念です。
―SNS上の反応
・普通に働いていると本屋に行くのは仕事帰りか休日になるので、夜に行けるのは確かに魅力的
・本屋の24時間営業という発想はなかった。興味深い。
・夜遅い時間に本屋に行きたくなることあるある。働く側の負担が増えないのであればいいと思う
・万引き対策は大丈夫なの?!
5.現在抱えている課題について教えてください。
・改善に向けて考えている施策
不明ロス(窃盗)に対する懸念は常にありますので、顔認証と防犯カメラの連動などで、不法行為の把握と対策(入店拒否)が出来る体制を作りたいと考えています。
・三洋堂書店様が導入している「スマート無人営業システム」について業界の協調領域として発展させていくお考えがあるのか
WAY書店や精文館書店などで同様の無人営業が始まっておりますし、弊社で独占するつもりはありません。今後も導入したいという会社があればノウハウをお伝えするつもりです。
6.今後の展望について教えてください。
・スマート無人営業を昼間の営業時間に延長する可能性はあるのか
本新店で実験的にほぼ丸1日のスマート無人営業をしましたがやはり売上の落ち込みが大きいので、今まで有人営業を行っていた時間帯をスマート無人営業にするのには消極的です。
ただし、年末年始や急な人員不足などスポット的に無人営業を行うケースは想定しています。
・24時間営業のスマート無人営業店舗の今後の出展予定
立地法の都合で24時間営業可能な店はほとんどないので、今後は無人閉店の店を増やしていきます。
また、スマート無人営業を導入した出店も検討していますが、具体的な予定はまだありません。
・今後のビジネス展開
今後は無人や24時間営業と相性の良いビジネスを店舗へ導入することで、お客様の来店動機を増やし、書店として存続できる可能性を高めたいと考えております。
例えば、シミュレーションゴルフ、レンタルスペース、アミューズメント、カラオケ、フィットネスなど無人でも問題なく営業できて24時間営業の利点があるビジネスは複数あるので、これらを組み合わせてお客様に支持されるような未来の複合書店を作りたいと考え、新ビジネスを模索しております。
|まとめ
三洋堂書店のスマート無人営業は、便利さと安全性を両立させた新しいスタイルの書店でした。
顔認証で安心して利用できる仕組みや、いつでも立ち寄れる気軽さは多くの人にとってありがたい存在になりそうです。
無人店舗と聞くとどこかハードルが高いイメージがあるかもしれませんが、実際に取材してみると、「もっと広まってほしい!」と思える工夫が多く詰まっていました。人手不足の時代における新たなビジネスモデルとして、次世代の小売業の在り方を示す道標となるのではないでしょうか。