派遣と請負の違いとは?メリット・デメリットや契約の際の注意点について解説
政府の働き方改革により副業解禁が本格化され、多様な働き方が広がっています。その中で、「派遣」や「請負」という言葉をよく耳にするようになりました。いずれも労働者の労働力を相手に対し提供する際に締結される契約形態ですが、両者には重要な違いがあります。両者の違いを意識して使い分けることで、人材をうまく活用することが可能です。
今回は、「派遣」と「請負」の違いやメリット・デメリット、契約の際の注意点などについて徹底解説します。
派遣と請負の違い
派遣と請負の違いを説明する前提として、まず派遣と請負の定義を説明した上で、それぞれを比較した場合の違いを詳しく解説します。
(1) 派遣
派遣とは、労働者と派遣会社が雇用契約を締結し、派遣先企業で働く労働形態のことをいいます。労働者が所属する派遣会社のことを派遣元、派遣先企業のことを派遣先と呼びます。
労働者が実際に働く場所は派遣先ですが、雇用されているのは派遣元です。労働者に対して仕事の指揮命令を行うのは派遣先ですが、仕事の対価として給料を支払うのは派遣元です。
(2) 請負
請負とは、注文者が請負者に対してある仕事を完成することを依頼する契約を締結し、請負者がその仕事を完成させることによって報酬が支払われる形態のことをいいます。
業務委託契約という契約を耳にしたことがあると思いますが、請負契約ではなく業務委託契約という名で締結されることもあります。
請負は仕事を完成させることが目的ですので、出社する義務はありませんし、労働時間が決まっているわけでもありません。また、自分以外の第三者に仕事を完成させてもらうことも可能です。
(3) 派遣と請負の違い
派遣と請負の定義を踏まえた上で、それぞれを比較した上で主な違いを3つ挙げて説明します。
① 目的
派遣は、派遣先と派遣元との間で、労働者を1時間あたりの労働単価、就業時間、就業場所などについて派遣契約で取り決めます。
例えば、「〇時間×〇〇円」のような計算式で報酬が決定されます。
つまり、派遣契約の目的は、派遣先において労働者が労働を提供するのが目的であり、決められた場所で決められた時間において労働する必要があります。
一方、請負は、注文者と請負者との間で、完成させる成果物の内容、成果物の納期などについて請負契約で取り決めます。
例えば、「〇〇ソフトウェアを〇月〇日までに完成して納品する」といった内容になります。
つまり、請負契約の目的は仕事を完成させることなので、就業時間や就業場所などの決まりはありません。仕事を完成させるまでにかけた時間は考慮されないため、短時間で成果物を納品することができれば請負者にとってメリットとなりますし、逆に成果物の納品までに非常に時間がかかってしまった場合には請負者にとってデメリットになります。
② 指揮命令権
派遣においては、派遣先に仕事の指揮命令権があります。よって、派遣元の労働者は、派遣先からの仕事の指示に従って労働しなければなりません。
一方、請負は仕事の完成が目的であり、注文者には仕事の指揮命令権はありません。完成する対象である成果物を指示し、成果物をどのように完成させるかは請負者に裁量があります。
ただし、請負者が会社である場合、その会社の従業員は、請負者からの仕事の指揮命令に従って仕事を完成させます。この場合も注文者に指揮命令権があるわけではありません。
③ 労働法の適用
派遣の場合、労働者は派遣元と雇用契約を締結しているため、労働法が適用されます。
つまり、派遣元及び派遣先は、労働法を遵守して労働者に労働させなければなりません。
具体的には、1日8時間・週40時間の労働時間の制限や、時間外労働における割増賃金の支払い義務などを遵守する必要があります。
一方、請負は雇用契約ではないため、請負者が個人事業主の場合は労働法の適用がありません。
労働時間の制限はありませんし、時間外労働という概念がありません。
ただし、請負者が会社である場合、請負会社の従業員は請負会社と雇用契約を締結しているため、請負会社の従業員には労働法が適用されます。この場合に労働法を遵守する義務があるのは、請負会社であり、注文者ではありません。
契約時の注意点
派遣契約は派遣先と派遣元との間で締結し、請負契約は注文者と請負者との間で締結します。それぞれ契約を締結する際には、さまざまな点に注意する必要があります。
以下では、主な注意点について3つ挙げて説明します。
(1) 労働者派遣法を遵守する
労働者派遣事業を行うためには、労働者派遣法に基づいて、都道府県の労働局から派遣事業の許可を受ける必要があります。
許可をうけずに労働者派遣事業を行った場合、労働者派遣法違反となり、最悪の場合刑事罰を受ける可能性もあります。
よって、派遣事業を行う際には、許可を得なければならない点に注意しましょう。
一方、請負については、許可は必要なく、当事者との間で自由に契約を行うことが可能です。
また、労働者派遣法では以下のようなルールが定められており、これらを遵守しなければならない点にも注意が必要です。
・派遣労働者への事前面接は不可
派遣先が派遣労働者に対し事前面接を行うことは、紹介予定派遣を除き禁止されています。
・派遣禁止業務は不可
港湾運送業務、建設業務、警備業務、医療関連業務において派遣を行うことは禁止されています。
派遣元との間で有期雇用契約を締結している有期雇用派遣労働者の場合、同じ事業所において3年を超えて勤務することはできません。なお、無期雇用契約の場合には3年ルールは適用されません。
(2) 偽装請負にならないように注意する
偽装請負とは、実質的には派遣や雇用の形態であるにもかかわらず、契約上は請負契約になっているようなケースをいいます。
例えば、契約書において、就業時間や就業場所がきっちりと定められており、注文者側の指揮命令に従って働くという実態があるにもかかわらず、契約上は請負契約(業務委託契約)となっているようなケースです。
本来、請負契約は仕事の完成を約し、仕事の完成による対価として報酬を得る契約ですから、就業時間や就業場所を取り決める必要はありません。また、請負者側の裁量によって仕事を完成させればよいため、注文者には指揮命令権がありません。
また、請負は労働法や労働者派遣法が適用されません。一方で、派遣は労働法や労働者派遣法を遵守する必要があります。
これに目をつけて、労働法や派遣法の制限を免れるために、実質的には派遣であるのに請負を装って契約することがあります。
偽装請負は違法であり、摘発されるケースもありますので、注意しましょう。
(3) 成果物に関する権利関係を明確にする
派遣の場合、派遣労働者が制作したプログラム、資料、図面、画像などの成果物に関する権利は派遣先に帰属するのが原則です。
一方、請負の場合、請負者が制作した成果物に関する権利は請負者に帰属するのが原則です。注文者に成果物に関する権利を帰属させたい場合、請負契約の中で注文者に帰属すると規定する必要があります。請負の場合は成果物に関する権利関係を明確にしておかないと、後々のトラブルを招くことになります。
使用者は派遣と請負のどちらを選ぶべきか
派遣と請負の違いを説明しましたが、使用者は派遣と請負のどちらを選ぶべきでしょうか。どちらを選ぶべきかは使用者が何を重視するかによって異なるため、以下では使用者が重視するポイントごとに整理して請負と派遣の選択基準を解説します。
(1) 時間単価ではなく固定報酬としたい場合
仕事の目的物の完成までにかかる時間が読めず、大量の時間を要する可能性がある場合には、請負契約のほうが使用者にメリットがあるでしょう。派遣の場合、労働者に対して時間単価に時間数をかけた報酬を支払わなければなりませんが、請負であれば仕事の完成に対する固定報酬を支払えばよいからです。
(2) 指揮命令権を及ぼしたい場合
仕事について労働者に対し細かく指示をしたい場合には派遣のほうがよいでしょう。派遣の場合、派遣先に指揮命令権があるため、労働者に対し細かな指示を出すことができます。
一方、請負の場合は仕事をどう完成させるかについては請負者に裁量権があるため、注文者は細かい指揮命令を及ぼすことができません。成果物が納品された段階でイメージと違ったということもあり得ます。
(3) 人材を育てたい場合
自社の戦略になってくれるような人材を育てたい場合は派遣のほうがよいでしょう。派遣であれば仕事の指揮命令権を及ぼすことができるため、研修を受けさせたり、徐々に責任ある仕事を任せたりすることが可能です。また、派遣期間終了後に正社員への登用も可能です。
一方、請負の場合は請負者の裁量で仕事が進められるため、人材育成という側面はほとんどありません。
(4) 専門スキルをスポットで利用したい場合
専門的な業務をスポットで利用したい場合には請負が向いているでしょう。一般的な労働者と比べて専門家は単価が高く、派遣のように時間単価で報酬を決定すると高額になってしまう場合があります。
一方、請負であれば、専門的なスキルをスポットで利用したい場合に、固定報酬で利用ができるため、コストを抑えられる可能性があります。また、請負者が自社にはない専門的なスキルを活かして仕事を進めてくれるため、自社のみでは気づかなかった視点での仕事の効率化などに気づくことができるというメリットもあります。
まとめ
働き方が多様化する中で、従来の正社員として働く形態のみならず、派遣や請負での働き方を選ぶ人が増えています。
派遣と請負の違いをしっかり理解した上で、どちらの労働形態を利用することが自社にとってメリットになるのかを検討しましょう。
また、派遣や請負を行う際には、労働者派遣法や労働法などの法律に注意する必要があります。偽装請負や無許可派遣などを行って法律違反となってしまわないよう十分に注意しましょう。
執筆者名:幸谷 泰造
保有資格:弁護士
所属弁護士会:東京弁護士会
東京大学大学院情報理工学系研究科修了。
ソニー株式会社で8年半会社員として勤めた後弁護士となり、多くの訴訟等に携わる。
自らも一棟アパートを所有する不動産投資家であり、不動産投資に関する知識を有する法律家として不動産投資家のマインドを理解したアドバイスを心掛けている。